工房閑話

 

 

トランプ旋風                              

 

 トランプと云っても、つい昨日まで筆者は、マンハッタンの一等地にあるトランプタワーくらいしか頭に浮かばなかった。トレードマークである派手で賑やかな言動も、何やら秀吉とイメージが重なってしまう。少なくとも、信長、家康ではあるまい。今や、良くも悪くも世界の有名人である。

 

 1992年の大統領選は、二期目を迎える現職のパパブッシュがクリントンに、まさかの敗退に追い込まれてしまった。無所属で立った実業家ロス・ペローに票が流れ、彼が撤退した後もその票の一部が、クリントンに流れたのが一因と云われている。

 

 今回の大統領選に於いても、共和党候補本命のジェブ・ブッシュ(元大統領パパブッシュの三男、前大統領ジョージ・ブッシュの弟)が、トランプと云う第三極の出現のあおりで、早々に撤退を表明している。当初大方の予想は、トランプはペローと同じ道を辿る、つまり失速は時間の問題だろうと高を括っていたが、どうしてまだまだ意気軒高である。1992年当時との決定的な違いは、中産階級が疲弊していることだろう。既存政治家への不満の受け皿となり、過激な言動で不信をあおり、それを糧に勢力を増しているように見えるが、人気は共和党支持者に留まらない。

 

 もしこの勢いで指名獲得・当選となると、アメリカはどう変わるのだろう。メキシコ国境に壁を作るかどうかは別にして、支持者との重要な約束である移民政策の転換が、何らかの形でなされるであろうことは想像に難くない。指名争い2番手のクルーズは、それ以上に過激であるとも言われており、共和党幹部も頭が痛いことだろう。世界規模で寛容さが失われつつあるこの時代に、共和党から威勢のいい次期大統領が選出されると、同党の欠点が顕在化し、辛うじて保たれている世界秩序が危機に曝されるかも知れない。共和党政権下「大量破壊兵器を隠し持っている」という憶測で、イラクに攻め込んでから10年余りしか経っていない。ことは移民政策に留まらないのである。

 

                              2016年3月25日

工房閑話に戻る