工房閑話

 

 

元寇

 

 「元寇」という軍歌がある。明治25年に世に出たこの歌も、戦後75年を経て知る人はごくごく僅かだろうから、あったと云う方が正しいかも知れない。歌い出しは次のような具合である。
 四百余州(しひゃくよしゅう)を挙(こぞ)る 十万余騎の敵
 国難ここに見る 弘安四年夏の頃
                   
 誠に軽快で小気味の良い曲は、小学校唱歌にも採用されている。四百余州とは中国全土を表す言葉である。中国を征服し元を興したフビライハーンは、国中(この場合朝鮮半島も含む)の兵を動員して攻め入ってきたとは、何とも壮大な詩である。周知のとおり一騎がけの北条軍は、集団戦法を駆使し、新兵器を操る蒙古軍に大いに悩まされたが、台風のおかげで辛くも敵を退けた。


 COVID-19の上陸以来、我が国は新しい生活様式なる竹槍で対抗してきた。手洗い、マスクに加えて三密と云う言葉を発明し一時は感染を抑え込んだかに見えた。「我が国の民度の高さの賜物である。」と云う政府高官の発言をきっかけに、自画自賛する風潮まで生まれた。なにやら、歴史で習った選民思想と変わらないようにも見える。

 しかしここに来て、やはりというべきか、急激な感染拡大に見舞われ、政治は混乱している。国と自治体が遠慮しながら決断を譲り合い、依然として公助は雲隠れしたまま自助が求められているが、新たな竹槍が支給された。「五つの小」やら「マスクを着用する会食」と云う思わず聞き返したくなるような代物だが・・・。ところで、上方落語を代表する演目に旅の話がある。その中の次のような下りを思い出した。曰く「せいやん、せっかくやけど、ワイはここへはよう泊まらん。この女中『足袋脱いで、草鞋脱いで上がれ』言いよったけど、ワイは草鞋脱がな足袋はよう脱がん」

 

 感染をものともせず、GO TO継続の勇敢な我が国に対して、敵はニューヨークのレストランで、入店前の客と従業員全員に抗原検査を実施するという臆病な実証実験を開始している。まさかミッドウェー海戦の再現にはならないだろうが、マスク無しか有りかどちらの会食に軍配が上がるのか目が離せない。

 奇跡的に蒙古軍を防いだ鎌倉幕府も膨大な戦費とさらなる侵攻への備えが重い負担となり、衰退を招くきっかけとなったそうだ。前総理は世界最大のコロナ対策予算を用意したと胸を張ったが、果たしてそれに見合う成果をあげているのだろうか。さらに時を経てこの台風は太平洋戦争に於いて神風と称され、自爆テロの大先輩とも云うべき特攻を生んだ暗い歴史がある。さしずめGO TOは令和の特攻にも見えてしまう。

 

                            2020年11月29日

 

工房閑話に戻る