工房閑話

 

 

 

西大寺事件

 

 2022年7月8日の昼頃元総理銃撃のニュースが報じられ、最初に飛び込んできた動画は、私服警官らしき人物数人が犯人とおぼしき男を取り押さえるものだったが、黒い鞄を持ったその中の一人に違和感を覚えた。この緊迫した場面にビジネスマンが紛れ込んだように見えたのである。

 

 実に痛ましい事件だが、その警備の実態が明らかになるにつれて愕然とした。日本の行政機能の劣化を象徴しているように思えたからである。ちなみに件の警官(警護官)の役割は常に警護対象者に寄り添い、異変を察知した場合には間髪を入れずに、カバンと自らの身体を盾に警護対象者を護ることにある。当然ながら持ち場を離れるのは論外で、仮にこれだけでも実行されていれば、致命傷となった2発目を防ぐことは十分可能だったと思われる。わが国の要人中の要人の警護がこのレベルなのである。

 

 銃撃犯の動機解明に際して、期せずして反社会的活動で知られていた宗教団体の健在ぶりが明らかになったが、間髪を入れずに協力関係にあった国会議員のサイトから関連記事が一斉に削除された。これは未だ序の口で、驚くべきは、選挙活動の協力を仰いだ、あるいは関連団体のイベントの実行委員長を務めたことを指摘された現役の閣僚が、事実関係を認めつつ特に問題はないと、悪びれずに応じている。他ならぬ防衛大臣と国家公安委員長である。劣化は政治主導で加速している。

 

 西大寺と云えば、この地域に馴染みのある者にとっては、近鉄線大和西大寺駅を指すことになる。大和西大寺駅は奈良と大阪を結ぶ奈良線と、京都から同駅を経て橿原神宮に至る京都線・橿原線が交差する鉄路の要衝であり、その駅前は選挙演説に恰好の場所なのだろう。本来の西大寺は、襲撃現場の駅を挟んだ反対側にある。創建は8世紀中ごろ、宗派は真言律宗。東大寺同様に戒律の研究に力を入れていたそうだ。その代表格が唐招提寺であり、戒律の確立が当時の日本の仏教界(社会と言い換えられそうだが)に於ける最も重要な課題であったことが窺える。また、この事業に民意の賛同があったことは想像に難くない。

 

 この多難な時期に、政府は国を分断し兼ねない国葬を強行実施する構えだが、故人を悼む手段としても、あまりにも品が無い。永田町に新たな西大寺を建てる方が、余程に美しく元総理の供養にもなると思う。民の賛同も得られるだろう。


 

                            2022年7月27日

 

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