工房閑話

 

 

 

エリザベス2世の国葬

 

 去る9月19日、ウエストミンスター寺院に於いて、エリザベス女王の国葬が行われたが、中継画面に映る荘厳な葬儀に驚かされた。質素ながら洗練された会場、葬儀に臨む内外の要人の敬虔な姿勢。何かと物議を醸す某元大統領にしても、この場にあっては静かにこうべを垂れることになるに違いない。葬儀に先立って一般市民にも弔問の機会が設けられたが、辛抱強く順番を待つ国民の、今までに見たことの無い、気の遠くなるような長い列も誠に印象的だった。

 

 人々の弔意に寄り添うように響く数々の音楽からも英国の伝統が伝わってくる。イギリスバロックを代表するヘンリーパーセルの聖歌、「安らかな眠りを」と奏されたバグパイプ等、いずれもイギリス音楽の奥行きを感じさせてくれるものであった。そうして、王室とドイツとの関わりからだろうか、ウインザーに向かう棺はバッハのファンタジーに送られて教会を後にした。

 

 この葬儀は英国の歴史と文化の集積の賜物と言えるだろう。また、女王の死を悼む人々の姿を見ていると、国民葬と呼んでも差し支えないと感じる。

 

 英国というと、王室の血なまぐさい歴史、イングランド国教会成立にまつわる胡散臭さ、帝国主義の先駆者等の負の側面を思い出すが、幾多の星霜を経て立憲君主国家のお手本とも言うべき体制を完成させてきた。同時に、若い世代の王室離れが顕在化しつつあり、偉大な女王の死は旧植民地問題を再燃させるきっかけにもなっているが、今後も課題に向き合いながら、王室存続の支持を得ていくような予感がしている。


 

                            2022年9月26日

 

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