工房閑話

 

 

 

高知県佐川町

 

 

 牧野富太郎の功績とNHKの慧眼が、土佐人より他に知る人は少ないであろうこの町に、ささやかな脚光をもたらしている。朝ドラでは気持ちの悪い大阪弁をさんざん聞かされてきたが、有難いことに「らんまん」の出演者は厄介な土佐弁を、上手にあやつってくれている。

 

 関ケ原の役の功により、山内一豊は破格の土佐24万石を拝領し、首席家老・深尾に佐川1万石を預けた。重良の入府に随行した商人の中には酒造業を営む者もおり、その後の佐川の発展に貢献することになる。また深尾氏の治世は子弟教育にも力を注ぎ、明教館(めいこうかん)と云う郷校を創設している。

 

 牧野の実家・岸屋もその時の入府組で、酒造業で成功を納めたと云う。牧野は、植物学研究のために、その土佐有数の豪商の財を喰い潰してしまっている。何とも剛毅な話だ。現在、他の酒蔵も廃業しており、司牡丹酒造が一人、明治の元勲・田中光顕、宰相・浜口雄幸、吉田茂等土佐の偉人に愛でられた、佐川の酒の歴史と伝統を受け継ぎ、全国区で健闘している。

 

 この司牡丹は、辛辣だが洒脱な言葉で売った昭和の漫画家・黒鉄ヒロシの実家でもある。ペンネームは司牡丹酒造の屋号・黒金屋(くろがねや)から来ている。筆者は、あの大橋巨泉と互角に渡り合っていた頭脳に感心したのを思い出す。無類のギャンブル愛好家らしいが、幸いこちらは実家を潰すには至っていない。

 

 佐川出身のこの二人は、世俗に捉われない闊達な人柄の持ち主のように見える。裕福で寛容な実家からの賜物だろうか。しかし裕福な実家が必ずしも闊達な人格獲得の充分条件でないことは、昨今の二世政治家が教えてくれる。ところで、土佐にはもう一人育ちの良い有名人がいた。司牡丹の黒金屋とも縁続きの高知の豪商・才谷屋を実家に持つ坂本龍馬である。司牡丹酒造は龍馬にちなんで辛口の日本酒「船中八策」を、黒鉄ヒロシの人気作品にちなんで焼酎「赤兵衛」を売り出している。

 

  

  実は佐川出身の四人目とも言える、高校時代の友人・M君がいる。彼は高校の先輩にあたる黒鉄ヒロシとも親しくしており、M君を通して眺める佐川の風景には惹かれる何かがあった。

 

 

                            2023年7月29日

 

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