工房閑話

 

 

ビザ申請の心得

   

 この11月(2015年)に開かれた市民団体主催シンポジウム「戦争法の廃止を求め、侵略と植民地支配の歴史を直視し、アジアに平和をつくる集い」に参加予定だった中国人のビザが発給されなかったと云う報道があった。この中国人は、旧日本軍の731部隊による細菌戦の被害者遺族ら12人で、同様の趣旨のもと、これまでに数度発給されているらしい。
 今回に限り不許可となった理由は何だろうか? 記事は以下の通り伝えている。外務省外国人課の担当者は、「ビザを出さなかったことは集会の内容とは関係がなく、発給の基準に満たなかったということ。その個別の中身は答えられない」と取材に回答している。歯切れは良いが、不透明このうえない。しかしながら、このことはビザの本質を良く語っている。その審査に於いて、領事の権限は絶大なのである。

 アメリカのビザに置き換えてみると、例えば214bによる不許可の代表例である「移民の意思のない事の証明の失敗(言い換えると移民の意思有り)」についても、そもそも移民の意思のないことを100%証明することは不可能である。申請者がこの先アメリカに住みつかないことを、本人を含め何人たりとも保証はできない。状況証拠による判断でしかない。つまり、「この申請者なら、提出書類やら立ち居振る舞い(これも大切な要素)やらからして、アメリカに居座ることはないだろう」と領事が判断してくれるか否かにかかってくる。

 このアナログとも云える審査に対処するのに、「100%排除は無理にしても、労力を惜しまず不許可となるリスクを最大限に最小化しておく」と云う視点を持つことは極めて重要である。何故なら、塩尻峠の雨の如く、千曲川を経て日本海に流れ込むか、天竜川となり太平洋に向かうか、紙一重の差で不本意な方に流されてしまうことがあるからである。

       

           

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